無意識さんの凪
その人は、ずっと君の近くにいて
だけど、君は最近になって初めて、その人と、ある不思議な感覚でもって、深くつながったように感じたわけなんだね
そして、それは、言葉でのつながりではなかったんだ
だから、互いにそのことについて語り合うこともなかったわけなんだね
それなのに、君は今まで感じたことのない満ち足りた何かを感じたんだね
それをその人も同じように感じたのかどうかはわからない
なぜなら、それは言葉ではなかったから
そんなものがあるなんて、君は知らなかった
それがあると知らないものについて、事前に知ることはかなわないわけだからね
だから、君はその体験をしたあと、しばらくは、これはなんなのだろうと
言葉にできない、これは一体どういうことなんだろうと
キツネにつままれたような感覚に陥っていたんだよね
だけど、それはとても静かで穏やかで、喜びとも興奮とも違っていて、まさに凪なんだと君は思ったわけなんだね
それまで、君はありとあらゆる言葉を尽くし、その人との関係をよいものにしようと、それこそ必死で努力をしてきたんだね
だけど、その結果と言ったら、その努力には見合わない、君の望みとはかけ離れたものだったわけなんだね
だからね、もう、君はその人との関係は一生かかってもどうにもならないものだと
そんな風にあきらめていたんだね
だからね、だからこそね、こんな感覚が自分に訪れる日が来るなんて、全く想像していなかったと
それも、その人と自分の間に訪れることなんて、その日を迎えるまで考えたことなどなかったんだと
それでも、やっぱり、どうしてそうなったのか
そして、どうすればそうなるのかも、わからないままで
だけど、その感覚はずっとずっと変わらず君の中に残っていて
その人と君はもう永遠にそのつながりでもって一体となって
それは、きっと、ずっともう変わることなく続くような予感がしているわけなんだね
何の前触れもなく訪れたそれを、どうやったら他の人との間に起こせるだろうかと、君は欲を出して考えてはみるものの、それはやっぱり分からないと
だって、どうしてそうなったのか分からないんだからね
不思議だとしか言えないんだね
だけど、それこそが無意識の世界なんだ